
感想は、これはなかなか意味とか、理屈とかを考えるものではなく、感じるものなんだろうなぁという印象でした。
ストーリーは主人公の約1年間の出来事を実際に起こったのであろうイデアとしての観点と、そうでありたいという想いをメタファーとして表現したものが交錯されるというような展開であった。
危惧していたとおり、前作の「多崎つくる〜」同様あらゆることが私の中では解決しないふわっとした終わり方だったのですが、それは氏の感じるものである小説の醍醐味なんだろうと自分では理解しました。
それにしても登場人物、情景描写が素晴らしかった。
小田原の風景は雨田の家も、免色の家もそして秋川笙子やまりえの家も私には築年数からなる家の痛み方、またこちらの家からの距離感をも明確に伝わった。
主人公と絡むたくさんの人の顔や服装、そして性格をそこまで伝えられる文章力は多くの人に支持されている理由なのかもしれません。
料理やお酒、ファッション、音楽、セックスそして車など、どういう感性で日頃から感じておられるのだろうととても考えながら読みました。
車が好きなので、免色のシルバーのジャガーのマフラー音のとりこになりそうでした。
事実、文章から想像されるのはFタイプのV8であると断定しカタログまで取り寄せた。
ロングノーズにスマートな目、両サイドから4本に分岐されたマフラーからの音をさらに感じることができました。
結末は非常にこの先も気になる終わりかたでありましたが、目に前で起こる出来事は、確かにそういう見えているものと心の奥底にあるものとが混じり合い、時として見えたり、消えたり、また生まれたり、そして潜在、顕在を繰り返すものなのかもしれないなと感じた本でした。