
毎日新聞で昨年連載されていた作品らしいです。
前作の「ブラックオアホワイト」も以前に読みましたが、やはり浅田次郎氏の本は面白い。
話は主人公である竹脇正一が定年の送別会の帰り道、地下鉄の車内で意識を失い、病院に運ばれ集中治療室に入っているところから始まります。
そこにお見舞いにくる人たちと主人公の関係性が極めて普通なところが、それと対極にある主人公の幾つかの旅(本人は集中治療室で寝ているので意識の中での旅)を際立たせる。
タイトルである「おもかげ」。最後にそういうことだったのかと何度も何度も思った。
最後の10ページくらい「そうか、そうか」と涙がポロポロポロポロ落ちました。
普通の家庭に生まれ、普通に両親に育ててもらった私みたいな人間には到底わからない赤ちゃんの時のその忘れたはずの一片の記憶。
読み終えた時の一番率直な感想は「こんな文章が書けたらいいなぁ」でした。
あたりまえかもわかりませんが「こんな本、書けないな」と本当に思いましたし、才能が羨ましいなぁと感じました。欲しいくらい、それくらい良かった。
これも感じた。ありがとうという言葉を我々はそう思って普段から発しているが、孤児院育ちの主人公は「ありがとうと言わなけば生きていけなかった」と書いていた。
想像するにそうであると思いますし、それを言う当事者を眺め、満足感を感じる自分という人間がいると感じました。
そのひと言は確かに当事者に私もなれば、生きていくためにありがとうを連呼したであろうし、それを言わなくても生きていける立場になれば、その言葉が苦手になるだろうとも思いました。
素晴らしい一冊でしたし、やはり浅田次郎氏の本は特に好きだと思いました。
「おもかげ」そういう意味だったのかぁとしみじみ感じました。