お歳暮でたくさんこのタイプのコーヒーもいただきまして、思い出したんで灰皿に入れてみました。
僕が以前勤めていた会社に入社したのが23歳で、その時の話なんです。
ペーペーなんで、毎朝誰よりも早く出社していました。鍵はある場所に隠していましたので、事務所にも入れました。
朝来てからまずするのは掃除です。掃除は新人の役目でして、同期がどんどん辞めていくなか僕は主任になるまで半年間毎日やりました。
ゴミ捨て、掃除機、机磨きから食器洗いに灰皿洗い、その中にコーヒーメーカーの洗いとみんなが飲むコーヒーを作るという仕事がありました。
リースのコーヒーメーカーで、紙のパックの中にコーヒーの粉を入れ、あと規定量の水を入れ、少しずつドリップしていき、先輩や上司が来る頃にはガラスの容器にコーヒーが出来上がっているようにしていました。
そのドリップ後の粉なんですが、毎日たくさんでるものですからもったいないなぁと、何か使い道はないかなぁと考えたところ、灰皿に入れることにしてみました。
当時は僕もタバコを吸っていましたので、先に自分で試してみたところ、タバコを消すとほのかにコーヒーの香りがただよい、なかなか良いものでした。
僕は「これはええやん」と思い、当時の僕の所属する事務所の中で一番偉い部長の灰皿にだけコーヒーの粉を入れ、机に置いておきました。
なんで部長だけかと言いますと、当時僕も今以上に子どもでして、毎日さも当然のようにコーヒーを飲む先輩、上司、コーヒーがなくなると「おいっ魚住、コーヒー無くなっとーぞ!お前はほんまに気がきかんな!」と言われることに今となっては感謝ですが反骨心があり、あえて、仕えている部長だけにしたんです。
部長が朝来て、まず習慣のタバコを一服。
僕はチラチラ見つからないように反応をうかがったんですが無反応。
どう考えても灰皿の中のコーヒーの粉は見えていますし、気付いているはず、でも無反応でしばらく上司たちに指示し出ていった記憶があります。
後で灰皿を見に行くと、コーヒーの粉に埋もれてタバコが消されていました。
まぁ、でも褒めてもらおうと思ってやっているんではないし、右も左わかっていない自分を使ってもらっているわけですし、気持ちよく仕事してもらえたらとの思いがありましたのでその後も続けました。
何日かは覚えていませんが、多分2週間くらいそれを続けていたある日の終礼で、いきなりその話題が部長からでました。
僕は何も言っていませんでしたのに、「毎日、魚住が俺の灰皿をきれいに洗ってくれて、その上、気効かせてコーヒーの粉までいれてくれている…」俺は毎日気持ちが良いし、気遣いが嬉しいというものでした。
「灰皿を机の右に置くのが好きということもわかってくれているし、こういう細やかな気配りをするやつはいままでいなかった、俺は確信した、こいつは絶対売れる」と言ってくれたんです。
とても嬉しかったですし、泣きそうになりました。
それから部長直々に営業を教えてくれることも多くなりましたし、ことあるごとに名前を呼んでもらえるようになりました。
だから、今僕があるのは、その出来事が大きかったし、売れると言ってもらったことが励みになりましたし、それを信じて「無理かな」とか「辞めようかな」とかは一切考えないようにしました。
そこから大きく仕事への取り組みが変わったと感じます。
ドリップのコーヒーを見たら、ついあの時のことがよみがえりました。
その時、部長が「今後、みんなコーヒーは無くなったらそれに気付いた者が補充するように」と言ってくれたので僕のコーヒー係も終了しました(笑)。